『深夜のダメ恋図鑑』 尾崎衣良 (著)
あらすじ
思わず「ないわ~」と漏らしてしまうようなダメンズや職場のトラブルメーカーが次々と登場する本作。女同士で定期的に集合しては、できれば関わり合いたくない、どうにか回避したい人間関係について話し合う。中には主人公3人の彼氏や婚約者も登場するのだが、スカッとするまではイライラしながら読む手が止まらない。既刊9巻。
「女だから」と口にする人間の中身はたいてい傷ついた人間より薄い
作中で特に感情を刺激されたのは「女は若くて素直なほうがいい」という言葉だ。これに対して「バカがバレないから?」と言い返すのがたまらない。TVドラマでも、ときどき女性が男性をやり込めるシーンがあるのだが、それらを観たときと同じような爽快感があった。
美術館に行くと高確率で、絵画を1つずつ、少し大きめの声で丁寧に解説し続ける人に遭遇する。「なるほど」となることもあるが、たいていは同伴者に知識でマウントを取っているように聞こえる。歩く速度を調整して距離を空けようとするも、順路が決まっているから何度も遭遇してしまう。グッズ売り場でも遭遇し、思わず振り返ると、一緒に来ていた人の目は心なしか少し虚ろだった。
目は口ほどに物を言う。本作の表紙の女性は、諦めたような、「あ、こいつには何言ってももうダメだ」と悟ったような目をしている。
以前、職場でニコニコと話す男性から「女なのに料理ができないなんて」という言葉が飛び出したとき、飲み会の楽しさは急激にしぼみ、「この人は好きになれない」とスンッとした表情になった。そのときの目がおそらく表紙の女性と同じ目だ。思うのは自由でも、わざわざ当てはまるかもしれない相手を目の前にして言うのは、賢くない。年齢を重ねていようと、高学歴であろうと、相手の「いやだ」が理解できない人は往々にしている。
かつては会社に一般職として就職した女性を「花嫁候補」と称したり、働き続ける女性が「行き遅れ」などと呼ばれた。どちらも棘のある言葉で、相手を1人の人間として尊重しているとは思えない。メディアでは死語になっていても、現実社会ではいまだに耳にする。
あえて棘を持たせた言葉を、そのまま受けとめなくていい。「女とは」「男とは」を枕詞に話をするような人とは、距離をとって自衛していきたい。
『東京タラレバ娘』 東村 アキコ (著)
あらすじ
2020年の東京オリンピック開催が決まった、2013年の東京を舞台に30代の女性の「あのとき~だったら」「~していればよかった」という後悔や反省をくり返しながら、がむしゃらに恋と仕事に生きる姿を描いている。全9巻。
自分で立ち上がるために「もう巻き戻せない時代」を肴に酒を飲む
最近、メディアで自分より年下の芸能人や活躍する人々を目にする機会が増えた。30代の生活は想像の倍以上楽しいのだが、10代、20代の子たちを眺めているとなんだか切なくなってしまう。肌の質感とか、似合う服装とか。
「もっと痩せたら」、「あのとき、あの学校を選んでいれば」など、ついついタラレバを言ってしまうのは、作中の主人公たちと同じだ。それに対して、モデル業・俳優業に忙しい20代の若者KEYは「30代は自分で立ち上がれ」と言い放つ。
はじめて読んだとき、タラレバ娘たちが飲み屋でくだを巻く姿が見ていられなかった。でも、30代を迎えて読んでみると、飲み屋で友達と過ごして、次の日もまた働く姿はたくましく、かっこいい。食べ放題に行ける強靭な胃ではないけれど、一品ずつ好きなものを頼んでシェアしながら食べるのも楽しい。
「隣の芝は青い」や「逃がした魚は大きい」という言葉があるのだから、タラレバ言ってしまうのは人間の性なのだ。そのようなことを口に出さないと決めている人も素敵だが、そこまでの自制心が私にはない。
気力を燃やし続けるのは、結構むずかしい。ついつい言ってしまうタラレバは、未来に少しだけ高い理想を持っているからで、自分自身を鼓舞するものになっている気がする。過去を振り返ると後悔は尽きないから、牛歩でもいいから、何かやってみる。今からだって遅くない。
『いつかティファニーで朝食を』 マキ ヒロチ (著)
あらすじ
社会人として奮闘する女性、専業主婦、雇われ店長、ヨガ講師の面々が、美味しい朝食を求めて集まる。時に朝カフェ、市場の朝ごはんなどを頂きながら、28歳で迎える人生の選択の連続に向き合う。全14巻。
「朝から幸せそうな顔でいられる人生」を送りたい
本作に出会ったのは、10年前。働きたい気持ちを抑え、専業主婦として家庭に入った頃で、働いていないことに後ろめたさがあった。だから、本作で主人公たちが活き活きと働き、ぜいたくな朝食を美味しそうに食べる姿に夢中になった。真似をして、ホットヨガに通ってみたり、モーニングを食べに行ったり、マンガ飯を再現して、「理想の朝」を追い求めていた。
作中では、主人公たちの幸せな朝を、彼女たちを取り巻く男性陣が邪魔している。用意した朝ごはんを、目も合わせずに当然のように黙って食べる夫。「一緒に行こう」と約束していたモーニングに間に合う時間に起きようとしない、同棲中のパートナー。一度ではなく、何度も繰り返してきた朝の情景で、男性たちが現状を理解するよりも早く、主人公たちは家を飛び出す。そして、1人だけの空間で、好きなように過ごしながら、ほんの少しの切なさを感じる。
前者、専業主婦の夫は、お弁当作りに奮闘したり、今後変わろうとすることで関係を修復していく。一方、後者は自分の心地いい空間を維持しようと、彼女の気持ちを誤解したまま、「結婚がしたかったんだろう?」と言うかのように婚姻届を持ち出し、すっぱりと別れを告げられる。
10年が経ち、あらためて読み返した私は男性側の目線で読んでいた。働くことを再開し、家事もほどよく手を抜いているので、現状に大きな不満はない。けれども、パートナーを尊重できているかというとそうでもない。1人だけの暮らしではないなら、本作のセリフにあるような「朝から幸せそうな顔でいられる人生」を一緒に送りたい。
ひとまず、週に1回だけでも、あの頃のように美味しい朝食を作ってみようか。