【編集長インタビュー vol.2】WORKとLIFEの線引きがない場所を目指す

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こんな方にお話を伺いました
唐しゃゆ(しゃゆーん)

「NoFrame」代表。上海うまれの上野・浅草そだち。日本大学大学院文学研究科中退。リモートワーク歴10年。自分が興味をもったものは即検索・即実行がモットー。通算4000人以上、子どもから大人まで幅広い世代のかたと面談してきました。その結果、スタートアップ・ベンチャー企業の総合的な立ち上げ支援のかたわら、全世代の仕事・育児・教育が融合した新時代のコミュニティ・スペースの設立に奔走中です。

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塾で出会った子どもたちに感じた生きづらさ

鈴木せいら
前回、学習塾の塾長としてお仕事をされていた時に子どもたちを見ていて生きづらさを感じたというお話でした。子どもたちというのは、どのぐらいの年齢だったのでしょう?
しゃゆーん
小学生から高校生まで、幅広い年齢の子たちでした。受験対策も行っているところで。
鈴木せいら
子どもたちは「良い大学に入ることがゴールであるかのような価値観」を持っている、という話でしたね。どうしてそう思ったのでしょう?
しゃゆーん
例えば、お友達が行くから一緒に行きたいとか、学費が安いから、制服が好きだからでも良いと思います。ただ、とりあえず親や先生に言われてとか、模試の結果の偏差値でここを勧められたから、という他者から押しつけられた理由だとしたら、モチベーションなんてもちろんありません。受験に合格した時の感動もないわけです。その状態で、子どもたちは大学受験までモチベートされていない目標遂行を繰り返すんです。
しゃゆーん
そういった状況を目の当たりにすると、子どもたちに本気で向き合ってくれる大人がいないんだな、と感じました。
鈴木せいら
そもそも子どもにとって大人との接点は、両親、学校の先生、スポーツや習いものをしていればその指導者というところでしょうか。どうしても限られてしまいますよね。
しゃゆーん
将来の夢は?と聞かれて職業を答えることがお約束のようになっていますが、そもそも職業に対する知識がないじゃないですか。例えばサラリーマンと言われて、じゃあサラリーマンってどんなことをする仕事なんだろう?って、分からないですよね。そういうことを語れる大人が身近にいないんです。
しゃゆーん
あるいは、子どもが漫画家になりたい、YouTuberになりたいと思っていたとして、その望みを聞いてくれる大人もいない。頭ごなしに、「そんな職業は生活が不安定だから良くない。とりあえず大学に行きなさい」って言われてしまう。本当に子どもがなりたいと思っているのであれば、大学へ進学しながらでもやりたいことを実現する方法はありますし、仮に大人になるまでに希望が変わってしまってもいいはずです。
しゃゆーん
いろんな手段がある中で、子どもの話にちゃんと向き合ってくれる大人がいないということは、本質的な教育になっていないと感じていました。
鈴木せいら
たしかに、親の立場、学校の先生の立場であれば冒険させられないというか、堅実で安心感のある回答を口にしてしまうかもしれませんね。

教科書を開かない授業で、ファクトフルネスが培われる

しゃゆーん
もうひとつは、自分自身の子ども時代の体験として、教科書に書かれていることをそのまま習うようなスタイルがあまり好きじゃなかったことがあります。おそらく一番重要な時期の小学校の時に、そういう教育を受けていないっていうことがあるのですけど。小3から小5にかけての担任の先生が教育熱心で、かつ授業研究をものすごくされていた方で。私の記憶の中では、その時期に授業で教科書を開いたことがなかったですね。
しゃゆーん
例えば、算数の公式を勉強する時に、まず体で覚えさせるんです。円の面積の出し方を勉強した時のことです。まず、「じゃあみんな身の回りにある円いものの長さを紐で測ってみよう!」と。円って大体しか計算できないじゃないですか。その大体で出した数字と、半径直径の関係性を探してごらんなさいって言われて、不思議なんですけどやってみると本当に外周はほぼ直径×3になるんですよね。次に、「実はこれ、公式があってね。3.14…が円周率πになるんだよ」という話に発展していく。この流れでいくと、公式が単なる式ではなく記憶に刻まれる。子ども心に、すごく腑に落ちたんです。
鈴木せいら
面白い授業ですね!
しゃゆーん
そうでしょう?他にも、水の問題で「今水道局でどのぐらいの水が使われていて、毎日どれだけ下水に流れているのか」と、実際のデータを用いて社会問題とつなげて覚える、ということがありました。ですから、私としてはあまり勉強している意識がなかったんですよね。そこでディスカッションもしました。例えばこの貧困問題についてあなたはどう感じますか、どうしたいと思いますか、というように常に問いかけられていて。問題ひとつ解くにも、必ずその問題に対する自分のコメントを残すことを求められていました。
しゃゆーん
そこで結局、国語の力も社会の力も理科の力も身に付く、もちろん算数も使う、といった感じで。総合的な時間と言うのですけど、学習すべてがつながっていたな、って気がします。
しゃゆーん
小学校の時の経験から、自分の意見を常に持つことが身に付いたと思います。そして、その時先生に言われたのが「前提を疑いなさい」と。要は、課題を出された時点で出す側の人間の恣意的なものが入っていますから、与えられたデータが確かかどうかまで疑いなさいということです。マスコミでよくありますよね、データの一部分だけを切り取って出すとか。そういうことが、自分の礎になっています。
鈴木せいら
いま広く求められている、ファクトフルネスの視点ですね。それを小学校の授業で実際に取り入れていたというのは、素晴らしいと思います。
しゃゆーん
私の理想としては、それを次世代の子どもたちに対する教育のスタンダードにしたいんですよ。でも、おそらく今の学校制度の中では実現が難しいと思います。先生たちの過剰労働が問題になっていて、多忙を極める中で無理だろうな、と。子どもたちの環境に多様性を取り入れる意味合いで、家族や先生以外に信頼できる大人との関わりを持つことが重要なのではないかなと思っています。

子どもにとってのサードプレイスを

しゃゆーん
親御さんの立場から考えても、小さな子どもを預けながら働くことはなかなか大変です。生活圏内に預け先を見つけなくてはいけない。一時期よりも待機児童の問題は改善されてきているとはいえ、不安定な世情のなかで育児と仕事のバランスを保つのは決してたやすいことではないと思います。では自宅で子どもを見ながら仕事をすればいいのか?それはそれでオンとオフの線引きが難しく、仕事に集中する時間がごく限られてしまうことも。
鈴木せいら
それで託児環境とワークスペースの併設を目指しているのですね。
しゃゆーん
そうです。子どもにとっても大人にとっても、生活生活と仕事空間のあいだに「壁」を設けるのではなく、それぞれがうまく溶け合っている環境が用意できれば、と考えています
鈴木せいら
働く親にとっては安心できる場所ですね。
しゃゆーん
大人が働いている姿を見せたい気持ちもあります。親が働いている姿を見た子どもたちは、リアルな「仕事」のイメージが持てる。自営業の家庭以外でも、親の働く背中を見ることができたらそれは子どもにとって良い影響を及ぼすのではないでしょうか。
出典:【子供のキャリア観と親の働く姿に関する意識調査】2018年 株式会社アイデム
しゃゆーん
子ども時代の世界は、どうしたって狭いものになってしまう。家庭、友達、学校、塾、習い事…。その限られた範囲の世界がすべてで、その中で絶望すると「生きていけない」と思ってしまうんですよね。つまずいた時に、逃げ場がないから。そのためにも子どものサードプレイスが必要なのでは?と思います。
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AUTHOR

鈴木せいらのアバター 鈴木せいら ライター・歌人

ライター歴11年目。北海道在住。本とビールと珈琲が好き。

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