シングルファーザーもシングルマザーもおなじ「ひとり親」 時には誰かを頼っていい

こんな方にお話を伺いました
上田豊(うえだ ゆたか)さん

石川県在住、経営コンサルタントとして働くも、オーバーワークの影響が大きく転職。職住近接でワークライフバランスを重視した生活を送っていたが、最近は子育ても少し落ち着いてきたため、再転職。現在はシングルファーザーとしての経験を伝える活動に参加しながら、ひとり親コミュニティの立ち上げをしてみたいと考えている。 

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残業のない職場へ転職 住まいも移して生活リズムを変えた

シングルファーザーになった経緯を聞いてもいいですか?

ひとり親になったのは今から9年前のことです。その頃、夫婦ともにオーバーワークが続いていました。妻は責任のあるポジションについたばかりで、慣れない仕事を抱えていて、私自身も残業をあわせると月400時間を超える勤務が3ヶ月続いて……。

しかし、オーバーワークがたたり、夫婦二人とも心の病になったんです。その後、私と子どもたちの3人で暮らしていくことになりました。子ども2人は保育園と公立の学童にそれぞれ通っていたので、小学生を18時半に、そのあと19時までに保育園へ迎えに行く生活を送っていました。

ひとり親になってから、大きく変わったことはありますか?

ひとり親になった後に、高校時代の友人が「大変だろ、大丈夫か」と声をかけてくれて、彼の会社にすぐ転職しました。それまでの仕事と職務内容は大幅に変わりましたね。ただ、18時になると社長自ら帰るようにと促してくれたので、仕事と生活の両立がとてもしやすく助かりました。

転職と同時期に、金沢市から私の実家がある能美市に移ったことで、職場・住まい・両親のいる実家の3つが近くなったのも、大きな変化でした。出勤にかかっていた時間を短縮できたので、夕方の慌ただしさはかなり落ち着きましたね。

ひとりで仕事も家事も頑張るより 事情を話して周囲に頼るほうがいい

職住近接になったとはいえ、ひとりですべてを担うのは大変だったのではないでしょうか。

最初の2年は調停期間でもあったので、親権のことを考えると家事の支援やシッターサービスなどを受ける選択はできませんでした。また、当時はシングルマザー向けの寡婦控除や給付金が充実してきたのに比べて、シングルファーザーが利用できる制度や金銭的な支援はまだ行き届いておらず、仕事のほうもがんばらなければなりませんでした。だから、「大変だけど、やるしかない」という状況でしたね。

経済的にも時間的にも余裕はほとんどなかったので、子どもを塾に通わせてあげられなかったり、時間をとって積極的に勉強をみてあげられなかったのが心残りです。

できる範囲で、家にいる時間は同じ空間で過ごしていました。我が家ではリビング学習をしていたので、勉強でわからないところを聞かれたら答えたり、3人で喋ったり、笑いあったりしていました。

家事・育児の中でも特に大変だったことは何ですか?

家事については、それまでも食事の準備や掃除・洗濯を分担していたので、不慣れで困るということはありませんでした。もしシングルファーザーになる前にほとんど経験がなかったら、もっと大変だったと思います。

近頃は住まいの近くにも「こども食堂」が増えていますが、当時はそのような場所は近くにありませんでした。1ヶ月に1回だけでも、自分がご飯を作らなくていい日、誰かに作っていただける日があったら、とても助かったと思います。

思い返してみれば、ひとり親になったばかりの頃は、仕事も家事も育児も「すべて自分でやる、人には頼らない」と思って踏ん張っていました。「できないから、やらない」という選択肢はなかったので、がむしゃらでしたね。考えている余裕もなかったのだと思います。当時はそのような状況に何かを感じとって、子どもが責任感を持って自分の身の回りのことや私の手伝いをしてくれていました。一緒にがんばってくれたのは、本当に助かりましたね。

どうしてもひとりでは何とかできないことが増えてくると、周囲に事情を伝えて、助けをもらうようになりました。子どもが小学校に通っていた頃、先生にお願いして、個人懇談の時間を遅くしてもらったこともあります。

事情を伝えることに抵抗感はありませんでしたか?

頼らずに1人でなんとかしようとしても、物理的に限界がくるときがあるんです。そのしわ寄せは子どもにいってしまうので、抱え込んで動けなくなる前になるべく話すようにしていました。

例えば、仕事で出張に行かなくてはならないときに、子どもたちだけで留守番してもらったことがあったんです。連絡は密にとっていたものの、とても不安そうでした。それからは、どうしても1人での対応が難しいときには、私の母にお願いするようになりました。

ひとりで育てているからこそ、もしも私自身が事故にあったり、無理をして倒れるようなことがあれば、残されたこの子たちはどうなってしまうのだろうという不安は常にあります。だからこそ、仕事を調整して、身近な人たちにも頼りながら、限界だけは超えないように気をつけています。

都市とそれ以外の場所では ひとり親への理解度に大きな差がある

まわりに助けてもらうことがある一方で、ひとり親であることで困った経験はありますか?

子どもの転校先の小学校で母の日の行事があったり、「母親と食事を作ろう」という宿題が出されることがありました。子どもらは意外と気にしていなかったのですが、私のほうが心苦しかったですね。子どもに悪いことをしているような気がしました。

我が家では、子どもたちのおばあちゃんが母のような存在でいてくれたので、そのようなときにも私の母に頼っていました。でも、その前に暮らしていた金沢市では、そんなふうに少し戸惑う場面は一度もなかったんです。人口が多い分、学校側もさまざまな家庭があることをわかってくれていたのだと思います。

子どもたちが通っていた野球チームでのお世話係も少し大変でしたね。お茶くみや試合時のサポートに参加するのですが、手伝いにきていたのは両親ばかりで、輪に入りづらいという感覚はありました。でも、他の家庭の方の理解があり、負担を軽減していただけたのはとても有り難かったですね。

他には、町内会の会費について「母子家庭」に関する記載はあったのですが、「父子家庭」については何も決められていないという出来事がありました。話をしてみると、父子家庭という存在に出会うこと自体が初めてだったそうです。そのときは会長の方がかけ合って、「ひとり親家庭」という書き方に変えてくれました。

実は私自身、他のシングルファーザーの方に直接会ったことはまだ一度もないんです。ひとり親になったばかりで「誰かに相談したい」と探したときに見つかったのは、シングルマザーのみを対象とした団体ばかりでした。後から知ったのですが、参加を女性に限定しているのは、さまざまな事情から男性が苦手になっている方のための配慮もあるそうです。

ようやく見つけたシングルファーザーも参加できる集まりでも、いざ行ってみると男は私1人だけだったり、イベントの中身が女性向けのネイルやメイクだったり。そのような経験もあって、最近までコミュニティへの参加から遠ざかっていました。

話せる相手がいない中、育児に関する悩みや日々の不安な気持ちをどのように解消していたのですか?

考えすぎたり、気持ちの落ち込みやイライラなどを引きずると余計にストレスになってしまうので、できるだけ早く切り替えるように意識していました。

今は子ども2人がずいぶんと成長したので、喧嘩したり、伝えたいことがうまく伝わらないという葛藤はほとんどありません。でも、もっと小さい頃は「きつく言い過ぎたな」と反省する日もありました。そのようなときには、「ご飯を食べたら切り替える」「お風呂に入って、あがればもうおしまい」というように、短い時間で自分の中でケリをつけていました。そのおかげか、今も3人とも長く引きずらないほうですね。少し険悪になっても、早々にその時間が終わるので、親子仲は良いほうではないでしょうか。

少し前からは、ひとり親向けコミュニティにも参加するようになりました。シングルファーザー、シングルマザーの両方が参加できるひとり親向けの「エスクル」というコミュニティです。全国に支部がありますが、数をみるとシングルマザーの加入が圧倒的に多いものの、少しずつシングルファーザーの方も増えてきていると聞きます。

近くに住んでいる方が多ければ、オフラインのイベントが開催されるのですが、石川県を含む北陸三県の加入者数はまだ少ないため、いまは関東地方の会合にリモートで参加させてもらっています。私はどちらかというとシングルファーザーの先輩として、話を聞いたり、質問に答えることが多いですね。

悩みを抱える「ひとり親」にとって見つけやすく、もっと気軽に話せる場所を増やしたい

コミュニティに参加するようになって変化したことはありますか?

これまでずっと、事あるごとに「自分のせいで、自分がこうだから、と子どもたちに申し訳ない」と思ってきました。でも、少し前にようやく「何も悪いことをしたわけじゃない」と思えるようになったんです。自分を責めるのをやめた。これは大きな変化です。早くに同じような境遇の方と話ができていたら、もっと楽に構えられていたかもしれません。

今年に入ってから、ほかにもシングルファーザーとして取材や講演のオファーをいただく機会が増えています。同じ境遇の方が見つかりづらいからこそ、シングルファーザーとしての経験を伝えられる場には積極的に参加していこうと思っています。

これからの生き方について、さらに変えていきたいと考えていることはありますか?

近々、過去に経験がある仕事で再出発します。これまでは家庭優先でしたが、今後の学費のためにも、もう一度バリバリ働くつもりです。それから、ひとり親が気軽に参加できるコミュニティの立ち上げにもチャレンジしてみたいと思っています。

今、父子家庭への支援やひとり親を対象としたコミュニティ自体は増えているのですが、シングルファーザー、シングルマザーの片方しか参加できない集まりが多いんです。でも、シングルマザーの中には「父親側の話を聞きたい」という人がいて、反対にシングルファーザーからは「お風呂にいつまで一緒に入っていましたか?」というような異性の親子ならではの質問が見られます。

どちらも「ひとり親」として、異性の子育てや他の人の考え方などを聞きたい、知りたい。そのような悩みを解消できて、ときどきでも楽に参加できる場を作って、ひとりで限界まで抱え込まないで済むようにしたいんです。

「明日事故にあったらどうしよう」「いつか病気になって自分がいなくなったらあと、子どもたちはどうなるのか」と、子どもの将来を心配する気持ちは父親も母親も同じです。だからこそ、シングルファーザー・シングルマザーという呼び方ではなく、ひとり親という呼び方がどんどん浸透していってほしいと思います。

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もえこのアバター もえこ 在宅ワーキングマザー

大阪府出身、兵庫県在住。京都女子大学短期大学部文学科 卒業。現在、ライター歴・リモートワーク歴ともに4年目。 2人目の妊娠後、2017年から在宅ワークをスタートしました。執筆以外にも、Webライティング・リサーチ・事務・解析などに取り組んでいます。文章力アップとキャリア模索をしながら、娘2人の育児に奮闘中!読書・音楽・紅茶が好きです。

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