「世界」は複数存在する その移動パスを手に入れたとき人は救われる

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こんな方にお話を伺いました
阿久津 春菜(あくつ はるな)

埼玉県在住。14年間の会社員生活を卒業し、フルリモートでのフリーランス活動開始。NLP・コーチング・チャネリングなど心理的アプローチの学びを活かし、400名が在籍するフルリモート組織で人材開発やメンバーのメンタリングを担当中。個人では、経営者のメンタリングやマネージメント契約も行う傍ら、糸掛曼陀羅ワークショップも定期開催し、人の心が解放される場作りに取り組み中。

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新卒でも「働かない」という選択 

新卒から就職までに数年間のブランクがあったようですが、何があったのですか?

いま思い返すと私は「引きこもり」といわれる状態でした(笑)しかし、当時はそんな意識はなかったんです。専門学校での成績は悪くありませんでしたし、卒業すればどこかに就職できるもんだろうと思っていて。だから、就職活動にもあまり熱心ではなく、何かをやりたい希望もありませんでした。

だから、名の通りがよい大手企業へのエントリーを1社だけして(笑)その選考から外れてしまったときに、就職に対する気力が途絶えたんです。1社落ちたから「もういいや」って匙を投げちゃったんですよね。先のことは何も考えていませんでしたし、不安や焦りも一切なかった。私は働きに出ていないだけ、という感覚で(笑)

就職を決める周りの友人をみて焦りは感じませんでしたか?

不思議なことに全く感じていませんでしたね。自分が働きたいと思っていないのだから、何も負い目に感じる必要はないと思っていました。実家では、私以外が働きに出ており、家庭内の仕事をしていたので、「引きこもり」という意識もありませんでした。これは推測ですが、学生時代もアルバイトをろくにしたことがなかったので、「働く」という感覚自体が自分の中になく。「仕事」を通じて、社会とのつながりを得たり、自己評価を得たりする経験がなかったから、それを欲しいとも思っていなかった。

急に働き始めよう!と思い立ったのは何かきっかけがあったのでしょうか?

25歳になった年にジブリ映画の「耳をすませば」を観たことがきっかけですね(笑)中学生が自分の将来について本気で悩み歩み出している姿が、とても羨ましく感じられて。急に働くことへの欲と焦りが高まったんです。そして、「25歳になったんだから働こう!」って意識ががらっと転換しました(笑)

思い立ったが吉日という言葉の通り、折り込みチラシの求人を見始めて。たまたま目にした制作会社の正社員募集に応募したら採用していただいて。本当に運が良かったと思います。資格やスキルを何も持っていないのに、加えて仕事という仕事もしたことがない職歴が真っ白な人間をよく正社員で採用したなぁと自分でも思います(笑)

「転職」は初めて自分の意思で決めた

実際に仕事をはじめてみてどうでしたか?

ただただ楽しかった。こんな自分を拾ってもらえた、という意識があるので、このご恩を返したいという気持ちに溢れていました。入社してすぐにチームを任せてもらえたり、自分が提案したことにいいねといってもらえて採択される。些細なことかもしれませんが、社会で自分が認められるという仕事のやりがいを初めて知ったんです。

その企業には14年間勤続されたようですが、急に転職を思い立ったのはなぜですか?

その企業における自分のポジションやミッションに対して魅力を感じなくなっていたのが大きな要因です。そして自分を拾ってもらったご恩を14年間という年月で企業に返せたのではないか、思いました。

それまでの私は「自分自身で決めてやり切る」ことがなかったんです。

自分の進学先を決めたときも、美術が得意だったから、友だちが美大に進学するから。そんな、ふんわりとした理由で受験校を決めました。また、美術予備校に通ってまで受験対策をしたのに、試験当日にモチベーションが下がり体調不良で途中退席したり。あげく、親には本当はデザインなんて好きじゃないと言ってみたり。

だから、「転職」は初めて自分で決めました

その企業にも在籍し続けても全然良かったはずなんです。それなりに周りから評価いただいて、業績もあげていたし、14年間というキャリアもある。それでも、他の世界を見てみたくなったんですよね。

「糸掛け曼荼羅」というワークショップをする阿久津さん

資格でもスキルでもない私の強み

具体的にはどのようにして次のキャリアステップを見つけたのでしょうか?

転職を決める1年前から自分の働き方を変化させることに挑戦しました。具体的には、雇用形態をフルタイムの正社員からパート社員に変更してもらったんです。正社員で仕事をしていると、時間の融通がどうしても効かない。自分の世界を広げようと、新しいコミュニティに参加したり、何かをイチから学ぶには都合が悪かったんです。

パート社員なると時間の自由がきくので、1年間かけて、心理学やコーチングに関するワークショップやセミナーに通いました。そのご縁から副業もしてみたり。

今となっては転職は当たり前という風潮ですが、当時の社風は「会社を辞める人間は悪者だ、ここでやっていけないやつは他所でもやっていけない」という暗黙の了解がありました。その呪縛に縛られていた私は、パート社員になって会社と上手に距離をとれて。会社と自分を切り離すことによって呪縛からも解き放たれたんです。

副業ではどんなことをされたんですか?

セミナー講師のマネージャー業です。講師のメンタリングからスケジューリングといったようなお仕事です。ここで仕事観の価値転換があったんですよね。普段自分が営業事務の業務として行っている当たり前の行為が、「お金」が発生する「スキル」になっていることに衝撃を受けたんです。いわば営業事務は社内営業担当の専属マネージャーのようなものです。会社ではスケジュール管理なんてやって当たり前、やらなければ怒られるだけ。自分が14年間培ってきた経験が、こんな形で活かせるとは思ってもみなかったので、目からウロコでしたね。

同時に、本当に自分の能力やスキルは他所でも通じないのか?という疑念を抱いていて。副業はその予行練習の部分もありました。この経験を通して、どうやら自分を活かせる場が他にもあるらしいな、の手ごたえを感じました。

自分自身の強みはどこにあると感じましたか?

入社当時の私は良く同僚とぶつかっていました(笑)それが社内で十数年間揉みに揉まれて、すっかり角がとれて人間が丸くなったんですよね。当時、代表に「お前は人間の好き嫌いが多すぎる。それを直せたら、もっと上のフェーズで活躍できるはずだ」と言われて。最初は何を言われているのか、全く理解できなかった。自分は好き嫌いで人を判断はしていないし、組織にとってのベストをつくしたいと常に考えていると思っていました。なんなら、仕事ができないほうが悪いと相手を断罪してました。

代表の言葉をはっきりと飲み込めたのは、新部門の立ち上げを経験したときでした。明らかに今までの自分のプレイスタイルでは上手くいかなかった。デザイナーとしては伸び悩んでいた方々を校正部隊として登用することを目的とした部門だったんです。一人一人に見合った適材適所の考えかたが自分の思考の幅を広げました。自分の我を通している場合ではない、全体最適化をいかに図るのか?という思考ロジックに自分が適応できたんです。

誰もが知っているような国家資格や見栄えのよいスキルを持っていなくても、この仕事のスタンスさえ確立できていれば、仕事になるなと最近感じています。

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私が生きられる「世界」はここではない

新しい挑戦に不安は感じませんでしたか?

そもそも私は自分自身に対する期待値がそんなに高くないんです(笑)だから「できる」のが当たり前だと思っていない。「できなかった」としても、自分のなかで納得できる。また、高校、大学、就職という人生の岐路において、自分の第一志望が叶ったことがないんですね。そんなもんか、と肩肘をはらずにすぐに次へと思考を切り替えられるのも自分の強みかもしれません。

そもそも第一志望といいながら本当の意味で自分の意志で決めたものではなかったから、進学先も、就職先も、そこじゃなくてもいいやってどこかで思っていたんだと思います。だから、挫折を感じたこともなかった。そういう意味では、今は自分がやりたいことを選択しているので、もう一段上のステージに挑戦しているのかもしれませんね。

もし、いま大きな壁にぶつかったら?

どうでしょう(笑)ぶつかってみないとわからないですね。

私自身、自分の生活や仕事の在りかたに執着はないんです。変化は起こるべくして起こる。なるようにしかならないという思いもありますが、起こるべくして起きた変化は、その時の最善なのだと思います。

未来を「握りすぎる」のはあまり良くない。なぜなら、「そうでありたい私」に縛られてしまうからです。縛られている私は思考が曇って「直感」が働きづらくなるんですよね。自分が感じた違和感を見落としがちになって、軌道修正が遅くなる。それを防ぐために、「未来の私」にはゆとりをもって接しています。

ゆとりをもった生きかたとは?

執着を持たないというのは、生きていく上で非常に大切な「スキル」の一種だと考えています。「~であるべきだ」「~でなくてはいけない」という強い気持ちはとてつもないプラスのパワーを引き出す側面もありますが、一歩間違えれば引き返すことのできない「執着心」の温床にも成り得ます。

「できない」「いやだ」「つらい」こういった負の感情を持っていないわけではありません。人間誰しもネガティブな感情に取りつかれることがあります。ですが、私は人よりもその切り替えスイッチを押すのが得意なんだと思います。負の感情を引きずらないことが重要なんです。「できない」けど「できる」ものもあった、「いやだ」けど「すき」なものもある、「つらい」けど「幸せ」な瞬間もあった。きっと交互にあったはずなんです。負の部分にだけフォーカスしないことで、常に心の余裕を生み出しています。

転職活動でエージェントサイトに登録する際に、資格・スキルで項目が選択できないことに直面したときに唖然としました。あ、この世界には自分は存在できないんだなって思っちゃいましたよね(笑)

でも、あくまで「その世界」では「生きられない」だけなんです。実は「世界」は複数存在していて、自分が上手く生きられる「世界」がどこかにあります。そこまで移動しちゃえばいいんです。みんな、そんな移動パスポートを持っていたら、もっとゆとりを持てて生きやすく感じるようになるかもしれませんね。

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しゃゆーんのアバター しゃゆーん 「NoFrame」編集長

「NoFrame」代表。上海うまれの上野・浅草そだち。日本大学大学院文学研究科中退。リモートワーク歴10年。自分が興味をもったものは即検索・即実行がモットー。通算4000人以上、子どもから大人まで幅広い世代のかたと面談してきました。その結果、スタートアップ・ベンチャー企業の総合的な立ち上げ支援のかたわら、全世代の仕事・育児・教育が融合した新時代のコミュニティ・スペースの設立に奔走中です。

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