“母親”にまつわるハラスメントの変遷

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ハラスメントについて考えよう

3月8日は「国際女性デーInternational Women’s Day)」です。1904年にニューヨークでおきた女性の参政権を求めたデモが起源となっており、1975年に国連によって制定されました。

1989年流行語となった「セクシャル・ハラスメント」。その年、「性的嫌がらせ」「性差別による不当解雇」を受けた女性が、元勤務先と上司を提訴する日本で初めてのセクハラ裁判が行われました。このセクハラ裁判を皮切りに、今日では39種類以上ものハラスメントが存在しています。

代表的なハラスメント
  • パワーハラスメント(パワハラ)
  • セクシュアルハラスメント(セクハラ)
  • マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)
  • モラルハラスメント(モラハラ)
  • ロジカルハラスメント(ロジハラ)
  • 時短ハラスメント(ジタハラ)
  • エイジハラスメント(エイハラ)
  • ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
  • リモートハラスメント(リモハラ)
  • ソーシャルハラスメント(ソーハラ)
  • スモークハラスメント(スモハラ)
  • スメルハラスメント(スメハラ)/音ハラスメント(音ハラ)
  • ハラスメントハラスメント(ハラハラ)

なかでも“女性”に向けてのハラスメントは多種多様で、政治家のセンセイたちですら、さまざまな失言が絶えません。

政治家発言参照サイト
森喜朗
(元内閣総理大臣)
「子どもも1人もつくらない女性が、税金で面倒をみなさいというのはおかしい」2003年7月3日 しんぶん赤旗
柳澤伯夫
(元厚生労働大臣)
「女性は産む機械」2007年1月29日 AFP通信
山東昭子
(自民党参院議員)
「子供を4人以上産んだ女性を表彰してはどうか」2017年11月22日 文春オンライン
長尾敬
(自民党・衆議院議員)
「セクハラと縁遠い方々」 セクハラ問題に抗議する女性議員に向けて2018年4月23日 朝日新聞
加藤寛治
(自民党・衆議院議員)
「人様の子どもの税金で老人ホームに行くことになりますよ」2018年5月11日 中央日報
麻生太郎
(元内閣総理大臣)
「セクハラ罪という罪はない」2018年5月18日 朝日新聞
萩生田光一
(自民党・ 衆議院議員)
「赤ちゃんはママがいいに決まっている」2018年5月27日 朝日新聞
桜田義孝
(自民党・ 衆議院議員)
「子ども3人くらい産んで」2019年5月29日 朝日新聞
根本匠
(自民党・ 衆議院議員)
「女性にハイヒール・パンプスの着用を指示する、義務づける」2019年6月5日 The Huffington Post
杉田水脈
(自民党・衆議院議員)
「女性はいくらでもうそをつける」性暴力相談事業に対して2020年9月25日 読売新聞
石島茂雄
(静岡県伊東市議)
「なんでもかんでもセクハラって、一体なんなんだよ。」2020年3月9日 毎日新聞
森喜朗
(元内閣総理大臣)
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」2021年2月3日 朝日新聞
石井章
(日本維新の会・参議院議員)
「年齢が若く、顔で選んでくれれば1番を取るのは決まっている」2022年5月15日 朝日新聞
細田博之
(自民党・衆議院議員)
「(女性記者へ深夜に電話で)今から来ないか」2022年5月18日 朝日新聞
杉田水脈
(自民党・衆議院議員)
「命に関わる女性差別ない」2022年11月30日 毎日新聞

そこで、2000年代以降に始まった「マザー・ハラスメント」「マタニティ・ハラスメント」を中心に、母親となる女性にまつわるハラスメントの変遷について調べてみました。

マザーハラスメント 

「マザーハラスメント」とは、母親としての女性の人格を無視するような世間からのハラスメントとして、2005年頃から広まり始めました。主に2〜5歳くらいまでの子どものいる母親に向けられる、「母親なのに/母親だから!」といった女性自身の人格を無視し、理想の「母親」像を押し付けるような言葉をハラスメントとして、女性たちは認識したのでしょう。

ハラスメント例
  • こんなに小さな子どもを預けて働きに出るなんて
  • 子どもを預けて、美容院、結婚式、飲み会などに参加するなんて、子どもがかわいそう
  • 公共機関でベビーカーが邪魔、泣き声がうるさい!母親は何してるんだ
  • 入学前までの子育ては母親がするべき
  • 子どもの躾は母親の責任

「家制度」「3歳児神話」ってなに?

どうして「母親」像がこんなにも女性を縛りつけるようになったのでしょうか。それは、明治民法の【家制度】、昭和初期にイギリスからきた【三歳児神話】が令和の現代にも色濃く残っている表れなのではないかと考えられます。

【家制度】とは1898年に天皇制の国家体制を支えるために作られた民法で、つまりは国民にわかりやすく、家長である戸主と家族の関係を天皇と国民の関係に擬えるものでした。これは戦後に廃止されたのですが、残念ながら今もなお感覚的に「家」や「氏」に囚われている方は多いようです。選択的夫婦別姓に反対する意見はそれをよく表していのではないでしょうか。男系の氏の継承という家制度はなくなったけれど、女性が家長の許可なく、働くことも自分の財産も持つこともできなかった当時の価値観のまま、女性に「子育て」「母親」という役割を割り振る風潮だけは残り続けていたのです。

その上、「母親」像をもっと強固なものとするため登場したのが、昭和26年(1951年)にイギリスからきた【三歳児神話】、『子どものために小さいころ(特に3歳までは)母親が育児に専念した方がよい』という説です。これを紐解いてみると、『子どもに大切なのは、安全な環境で愛情をもって養育されること』という至極当たり前の内容なのですが、母親の不在がよくないという一面のみが強調されて浸透してしまいました。

母親が働いていてもたとえ不在の時間があったとしても子どもの成長発達へのリスクは全くないという一万人以上の子どもを調べたアメリカの調査結果もあり、日本でも平成10年(1998年)に厚生労働省から「3歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない」と発表されています。母親が働いていても、美容院に行っても、結婚式に参加しても、愛情を持って子育てすることはできます。そして子育てとは必ずしも母親だけでなく父親もするべきことでしょう。

家制度はなくなり、夫と妻の間に主従関係はなく、愛情を持った子育てとは、夫婦の協力でできるということは誰もが知っていることなのにも関わらず、「妻・母親」という檻に閉じ込めないで欲しいという女性の声は、「ハラスメント」という明確な輪郭をもったことで、より世間に認識されたのはないでしょうか。

マタニティハラスメント 

2010年以降台頭してきたハラスメントである「マタニティ・ハラスメント」。これは、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントです。

2013年に働く女性626名を対象に行った「マタニティ・ハラスメントに関する意識調査」では、妊娠経験者の4人に1人が「妊娠したら解雇された」「会社に育児休暇の規定はないと言われた」「妊娠中に残業や重労働をさせられた」などの被害にあったことがあるとの回答でした。しかし同時に、まだ79.5%が「マタニティ・ハラスメントという言葉も意味も知らない」との回答もありました。その後、2014年にマタハラ裁判で「妊娠後に降格されたのは男女雇用機会均等法に反する」という最高裁の判決が出て注目を集め、その年の新語・流行語大賞トップテンに「マタハラ」が入りました。「マタニティ・ハラスメント」の誕生です。

2009年以降、「マザー・ハラスメント」の話題はネット上でも減り、「マタニティ・ハラスメント」がその座をとって変わります。「マザー・ハラスメント」は世間での母親への、「マタニティ・ハラスメント」は職場での母親へのハラスメントです。つまり、「マタニティ・ハラスメント」の発現は、母親たちが家庭から社会に活躍の場を移したことを表しているのではないでしょうか。

ハラスメントの例
  • 育児休業の取得を相談した女性社員に、「休みをとるなら辞めてもらう」と言う
  • 産前の検診のため休業を申請した女性社員に、勤務時間外に病院に行くように言う
  • 育児のため短時間勤務している社員に、「業務が楽でいい」と言う
  • 妊娠した女性社員に「なぜ忙しい時期に妊娠するんだ」と冗談を言う
  • 「妊婦はいつ休むか分からないから、責任ある仕事は任せられない」と雑用ばかりさせる
  • 面接時に夫婦生活について質問する

女性の社会進出が進んでいるからこそ

「家庭で子育てをする母親」をスタンダードとした風潮の中で、それでも多くの女性たちが社会に出ることを選択し始めました。そのきっかけは【平均年収の減少】【育児・休業法の改正】が深く関係しているのではないかと推測しました。

資料:国税庁「民間給与実態統計調査」
資料:総務省「労働力調査特別調査」(2001年以前)及び総務省「労働力調査(詳細集計)」(2002年以降)

表からもわかるように、バブル崩壊以降減り続けていた日本の平均年収が2008年のリーマンショックでますます下がり始めました。それに伴い、1995年に成立した【育児・介護休業法】が大幅に改正された2010年以降、共働き世帯が急激に増えてきています。

改正の柱は、育休期間終了後の職場復帰をスムーズにすることです。 それ以前の女性の育児休業取得率は、2009年には85.6%と、1999年の56.4%に比べ大きく伸びましたが、一方、働く女性の7割近くが出産を機に退職しているという問題があったのです。出産前後の就労継続の難しさがうかがわれます。

結婚しても子どもを産んでも仕事を続けたいと希望する女性に、出産を前向きに検討してもらいたいという法律に後押しされ、そして世帯年収が減り続けるという現実に立ち向かうため、何より家庭に閉じこもることなく自由に自分の意思を選択するため、社会で活躍する女性が増えていったということでしょう。

こうして、出産前後の就労継続を阻害する「マタニティ・ハラスメント」が大きな社会問題になったのです。

執筆後記

広辞苑によると「ハラスメント」とは「人を悩ませること。優越した地位や立場を利用した嫌がらせ」と解説されています。ずっと身近に存在してきた、人を悩ませる様々な「いじめ」や「嫌がらせ」は、「ハラスメント」という名前がつくことで、世間で認識され社会問題となっていきます。

性的な嫌がらせの被害はずっと昔からありました。女性が結婚をしたら会社をやめる風潮などは昭和の時代では当たり前とされてきましたが、それを不当や不快に感じる人もたくさんいたことも事実です。それを現代の人々は、問題をそのまま放置せず、戦うために「ハラスメント」という王冠をかぶせ社会問題に取り上げているように感じます。今回は「母親」に関するものを取り上げましたが、ハラスメントの対象は女性に関わらず男性はもちろん、ジェンダーに囚われないものまで多種多様に存在しています。

問題が提起された以上、いつかは「●●●●ハラスメント」という言葉が世の中から消失し、問題が解決していかなければならないでしょう。100年後にはどれだけのハラスメントが減っているのでしょうか。あるいは増えているのでしょうか。

参考サイト一覧

出典サイト一覧

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東京の下町生まれ下町育ち。出産を機に退職後、細々とパートタイムで働いていたがコロナによって専業主婦に戻る。コロナ終息と上の娘の高校入学をきっかけに、在宅ワークにチャレンジしてみようと一念発起。新しい働き方になかなか慣れず、戸惑いながらも必死に勉強中の40代。昔の邦画と中国歴史ドラマが好き。在宅ワーク初心者。

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