テーマ「シニアでも主役になれる!」より おすすめ漫画3作+1

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傘寿まり子 おざわゆき(著)

あらすじ

息子夫婦と孫世帯、そしてひ孫とともに4世代同居をしている「まり子」さんは、80歳(傘寿)を迎え、家では所在のなさを感じていた。夫はすでに亡くなり、小説家としての出版もいまはなく、短いエッセイの寄稿を毎月書いている程度だった。ある日彼女は、家族が自分抜きで住まいの建て替えを話し合っているところに遭遇し、一人でそっと家出する。全16巻。

シニアになるまでに身につけたい 人を観察して軽やかに生きる術

本作が話題となったとき「おばあちゃんが主人公かー」と思って読まずにいた。しかし今回、編集長に薦められて手に取ると、先が気になって仕方なく、一気に読み進めた。

主人公の「まり子」さんは穏やかに年を重ねたシニア世代ど真ん中、80歳の女性である。小説家としてキャリアを重ね、その間に結婚、出産、夫の死までも経験して、現在はエッセイを月に1本と、傘寿となっても仕事を続けている。

「書く人」の目線だからか、まり子さんが周囲のいざこざを捉える言葉は重たすぎず、愚痴は言っても、人を批判するようなことは言わない。例えば、自分抜きで行われている家の建て替え会議を知って家出したあと、たどり着いたネットカフェでまり子さんは「気楽だけどさびしい さびしいけど気楽 こんな自由もあったのね」と一人でつぶやく。その時にはじめて出会った気持ちに目を向けているのだ。

どうにも周囲の事情を考えすぎてしまう私は、「被害者意識」を抱きがちだ。「どうしてそんなことをするの!」「なぜその一言で相手が傷つくことが想像できないの?」と思うことが多々ある。連れ合いに言わせれば「そこまで気にしていたら、そりゃ疲れるよ」だそうだ。
私も、せっかく書く仕事をいただいているのだから、相手を観察して、自分とは別の存在としてとらえれば、過剰なダメージを受けずに済むかもしれない。

試しに外出時にあたりを見回すと、昔はうるさく感じていた男子中学生の騒ぎっぷりも可愛らしく見えるし、ブックカフェにやってきた大学生二人も「良い子そうだなあ、趣味が合う友だちなのかな、いいな~」とマスクの下でニコニコしてしまった。しかし、同世代となると、どうも羨ましさや妬ましさが時折顔をのぞかせる。体調が悪ければ、怒りにもつながったりする。

そう思うと、まり子さんの優しさは書く側の観察目線だけでなく、やはり年を重ねた傘寿パワーも肝なのかもしれない。「今日は虫の居所が悪かったのかしら。私もそういうことあるのよね~」と、脳内でまり子風につぶやけば、悩みがちな私でも気持ちの切り替えが少しスムーズになりそうだ。

小学生の頃、親戚のお姉ちゃんが「おじいちゃん、おばあちゃんって、可愛いよね~!」と言っていた。私は自分の祖父母以外にはそんな気持ちを抱けず、共感できなかったのだが、もしかしたらお姉ちゃんはシニア世代の方々をすでに観察して見ていたのかもしれない。そんな彼女なら将来、傘寿まり子のような80歳になっているかもしれない。

海が走るエンドロール たらちねジョン(著)

あらすじ

65歳の「うみ子」さんは昨年、夫を亡くしたばかりで、周囲からは「何か新しいことを始めてみては」と気遣われている。彼女は丁寧に暮らすなかで、自分が好きなのは「映像そのものよりも、映像をみている人をみることだった」とあらためて気づく。そして、映像科に通う「海」という大学生に刺激を受け、自ら映画を撮るために人生二度目の大学に通い始める。気持ちのモヤモヤには年の功で切り替えながら、気づいていなかった自分の激情に揺れうごくシニア女性の姿が描かれている。

ボートを漕ぎだす時期に、遅すぎることはない

表紙でカメラを構えるシニア女性は、65歳の主人公うみ子さんである。彼女が大学の入学面接を受けるシーンが特に好きだ。

どこか大人しい印象を与える彼女だが、これまでずっと好きだったことに取り組み始めるその目は本気で、「もっと知りたい」という好奇心に火がついてからは止まらない。そして、海に対して「誰でも船は出せる」と言う。

私はこれからどうしようか。何をしようか。死ぬまでにやっぱりやっておきたかったことは何だろうか。

私の周囲にはパワフルな大人が多く、退職後の生活をおう歌しているシニア世代も多い。例えば、写真や絵、キルト……どれも素敵だ。各々が一人で遠出したり、各々がそれぞれの好きでつながった人と交流している様子に憧れる。

「その人たちの共通点はなんだろう」と考えると、学生時代からの「好き」を素直にずっと続けてきた人や、めいいっぱい働いた後にあらためて「好き」を再開した人たちだった。少年少女のように夢中になっていることがある人の話は、どれも知らないことばかりで、インターネットで検索して知る内容よりも数段面白い。母を通じて送られてくる写真や、家に届く絵葉書をひそかに心待ちにしている。

私も好きなことを思い出したいと、最近絵を描き始めた。昔は、小学校の休み時間にも夢中でノートに絵を描いていたのだが、一心不乱に描きすぎて、友だちに見せようと「これどうかな?!」と立ち上がったときにはもう授業は始まっていた。没収されたノートは返ってこず、それから私は絵を描くことをやめた。

あらためて描こうとすると、美術館に行っても「どうやって描いたのだろう?」と絵の見方が以前とは少し違ってきた。空き時間にしたいことがあると、時が過ぎるのもとてつもなく早い。他にも勉強してみたいことがある。仕事にしてみたいこともある。

「いまからでも遅すぎることはない」と自分に言い聞かせながら、勇気が出ない時にはうみ子さんを思い出している。

その女、ジルバ 有間しのぶ (著)

あらすじ

40歳になったばかりの主人公は、このまま何も成さずに老いていくことを悲しく思っていた。そんなとき、偶然みかけた平均年齢70歳の高齢BAR「OLDJACK&ROSE」のホステス募集の貼り紙を見て、思わず扉をひらく。

亡き伝説の女ホステス「ジルバ」がオープンしたそのお店で、パワフルなシニア女性たちに囲まれるうちに、主人公もだんだんと生き生きとしていく様子が描かれている。全5巻。

思い切って環境を変えれば、生き方も変えられる

主人公は40歳で新たな仕事を始めた。私はいま30歳。20代をすぎてから、これからのことに思い悩んだり、自分が何も成せていないことに悲しい気持ちになる時間が、波のように訪れる。ずーんと重く沈む感じではないのだが、なんだかどんよりとほの暗い。「老い」と検索してしまうことすらある。

漫画に登場するシニア女性たちのように、衝動的なほうが、新しいことを始めるのには良いのかもしれない。人間は30歳を過ぎると「やってみるリスク」より「やらないリスク」を取ってしまうらしい。

たしかに、最近の私は言い訳が多い。「時代のせい」「考え方が合わない」「専業主婦が良しとされる環境のせい」「女の子だもんね、がまん延している空気のせい」など…。「~のせい」と口に出すと、恨みがましい気持ちがふくらむ上に、怒りの感情が脳を心地よくさせるから厄介である。

作中で皆を引きつける「ジルバ」と同僚のシニア女性たちの存在感はものすごい。思うようにならない人生を送った上で、皆が明るく、その明るさに影響されて主人公も明るくなっていく。

「踊って転んで笑って それで80年よ」というセリフが私の背中をたたく。

老いていくことを意識しすぎていたかもしれない。気づいたらシニアになっている、そんな生き方をしてみたい。

中年女子画報 ~46歳の解放~  柘植文(著)

あらすじ

中年女子画報シリーズの第3巻。シニア世代に入る前、40歳を迎えた著者が、年齢による体の変化やど忘れに驚きながらも、日々にあったことやはじめて挑戦したこと、失敗談や好きになったことなどを紹介しているエッセイコミック。既刊4巻。

やらないのは損。とりあえず年齢を受けとめてみるのが吉

46歳という年齢は、遠いようでいて、アンケート調査などでは「30~40代」とひとくくりになる年齢でもある。

いま、ケーキを食べながら、この文章を書いている私は、中年に差しかかったと言えるのだろうか? 10代に体力を全て使い果たしたのではないか、というくらい疲れやすくなってきたし、代謝も悪く、年々アレルギーの対象が増えている。皮膚も前より敏感になり、ゆらぎ肌で乾燥肌でもある。つまり、確実に「老い」への進みを感じる日々を送っている。誕生日を1ヶ月後に控えているが、これでは楽しい気持ちで迎えれそうもない。

素敵な40代女性をたくさん知っているし、その方たちはみんな綺麗で、かっこよくて、憧れと楽しみを抱いたが、自分がその年齢となることにはまだ抵抗があった。

『中年女子画報』は著者が40歳を迎える年に書き始めたもので、当初は40歳になることへの抵抗や迷いも感じられたのだが、46歳となってからを描いた本作にはお試しチャレンジ欲と年齢を重ねた故の潔さがあふれ出ているように思う。特にサブタイトルの「解放」に惹かれた。とても良い響きだ。

著者の実体験として、きのこ狩りやジビエ肉との出会いのほか、子宮筋腫摘出のお話にも他の話題同様に触れられているのだが、なんだか明るい著者が心強く、数多く登場する「グサーッ」や「パッカリ」といった擬音語にもホッコリする。

なんとか今年の誕生日は明るい気持ちで迎えられそうである。連日のニュースの内容に、老後の生活資金、自分の健康、仕事をどこまで続けられるかといった不安は積み重なるばかりだが、暗くなったときに感じたことをチャチャッと書き留めてみると良いかもしれない。著者のように、後ろや下ばかり見ずに、ななめ上あたりを見て歩いていきたい。

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もえこのアバター もえこ 在宅ワーキングマザー

兵庫県在住。小学生2人を育てながら、現在ほぼフルタイムで在宅ワーク中。趣味は推し活と読書。

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