厚生労働省が2023年7月4日に公表した「2022年 国民生活基礎調査の概況」によると、個人の平均年収は30代が447万円、40代が511万円、子育て世帯の平均所得は、全世帯の平均所得の1.4倍の672万円という結果となった。子育て世帯が200万円近く上回っている。つまりこれは、子どもを育てるにはお金が必要で、それも一人分ではなく二人分の収入が必要ということだろう。
一昔前のような、父親が外で働き収入を支え、母親が家で家庭を守り子育てをするという家族像は消えつつある現代。女性は家庭を守るだけの存在ではなく、男性と対等であると認識され、結婚・出産をしても仕事を続けることが当たり前の世の中になった。でもそれは自己実現やキャリアのためという理想や願望のためだけではなく、子どもを育てるための資金を作るという現実的な問題も大きいのかもしれない。
では、いつも家庭にいて子育てをしてくれる存在がいなくなった今、子どもはどうやって育てていけばいいのだろうか。手がかかる幼少期は保育園や第三者に預けるしかないのか。あっという間に成長する我が子をそばで見守り、子育てをしながら仕事をすることは可能なのだろうか。
子どものそばで働きたいと思う「ママ」が多いのは何故か?「パパ」は?
「ママ」の事情
育児休暇は最大子どもが2歳になるまで取得できるが、保育園に入園できないなどの事情がなければ、子どもが1歳になる頃に復帰するのが一般的だ。
だが、1歳前後の子どもを預けての社会復帰は子どもにも両親にとっても難しい。実際、育休明けの離職率は「働き方改革」や「テレワーク導入」によって減少傾向にあるが、2023年に厚生労働省から発表された「第一子出産前後の妻の継続就業率・育児休業利用状況」から、23.6%の働く女性が出産後離職したことがわかる。育休を取得し産後の復帰を希望していたけれど、実際出産を終えてみると状況が想像していたものとは大きく異なるケースが多々あるのだろう。
1位:保育園の送迎や病児の対応ができるか
2位:遅刻や早退、欠勤などで職場に迷惑をかけないか
3位:自分の体力がもつか
4位:子どもに寂しい思いをさせてしまうのではないか
・ 仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立が難しかった
・ 家事・育児により時間を割きたい
・ 勤務地や転勤により仕事を続けるのが難しかった
・ 夫の協力がない、子どもが寂しがるなどの理由から、家庭で子育てを優先しようと感じた
・ 子どもの預け先が見つからない
53.8%の人はそのまま職場へ復帰して仕事を続けているが、不安が全て解消されての復帰とは限らない。出産を終えて1年間子育てに専念してきた親は、社会復帰へ対して生活面や体力面での不安と、子どもとの分離という精神的な不安も抱えている。その上、子ども本人も親との分離に耐えられるのか、保育園に馴染めるのか未知なる不安が山積みだ。しかし家計を支えるため、キャリアを諦めないためなど様々な事情を抱えながら仕事へ復帰している。
「パパ」の事情
2022年の厚生労働省の「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)によると、男性の育児休暇取得は全体の17%となっている。数字でみると少ないように感じるが、10年前の2012年の1.9%と比べると男性の育児への意識の変化がみられる。しかし育休後、会社から求められるのは育休前と変わらない働き方だ。確かに、男性も育休は取りやすくはなったかもしれないが、女性が当たり前に利用している時短勤務などの制度を、男性が利用している例はあまり聞かない。男性の育児休暇は話題になったが、その後の働き方についてはなぜあまり注目されないのだろうか。
・ 育児休業
・ 産後パパ育休(出生児育児休業)
・ 短時間勤務等の措置
・ 子の看護休暇制度
・ 時間外労働の制限
・ 転勤についての配慮
・ 所定労働(残業)の制限
・ 不利益取扱の禁止
・ 深夜業の制限
・ 育児休業等に関するハラスメントの防止措置
これだけの育児休業制度があるにもかかわらず利用しにくく、利用できてもまわりの理解が足りなかったり「まわりの男性は子どもができても業務量は変わらない。自分も成果を出さなければならない」というプレッシャーに耐えきれず体調を崩してしまうケースもある。
昭和の時代のお父さんたちは家計を確保するために平日は働き、休日はゆっくり休めたかもしれないが、子どもの頃から家事育児に積極的に参加するよう教育されてきた現代の男性は、仕事量は変わらない上、家事育児も手伝わなければならない。ひっそりとキャリアを諦めたり転職を選ぶ、育休で終わらない育児をしたい男性は多いようだ。
女性が仕事を続ける上で不安に感じる、「保育園への送迎」「病児の対応」「子どもの気持ち」は、いっそ子どものそばで仕事ができれば解消できるのではないか。男性が社内では利用しにくい制度も、社外で仕事をすることで利用しやすく心理的負担も解消され、より子育てに参加できるのではないか。そんな思いから「子どものそばで働く」という働き方を模索する人が増えているのかもしれない。
「子どものそばで働く」を阻む問題とは
子どもを預けることなく仕事をする方法論としてまず最初に考えられるのは「在宅」での仕事だろう。在宅ワークを行うことで起こり得る問題とはどんなものだろう。
在宅で仕事が可能かどうか
在宅での仕事の不安とは
この2点を中心に考えていきたい。
在宅での仕事が可能か
在宅で仕事が可能かどうかは、勤めている企業の制度や業務内容による。少子化対策として育児の時間を増やすため、厚生労働省から「3歳までの子どもがいる社員がオンラインで在宅勤務できる仕組みの導入を努力義務とする」省令が出されたが、あくまで努力義務であって対応できている企業ばかりではない。そもそも、飲食業やサービス業などオンラインに適さない仕事もある。また、自宅が仕事をするに適した環境かどうかの問題もある。会議中に子どもの声が入ってしまったり、集中力が必要な作業をするときに子どもがおとなしくできるとは限らない。子どもが過ごすスペースと仕事をするスペースが確保できればいいが、住宅環境によっては難しいだろう。込み入った作業は子どもが寝てから、など柔軟に時間を使える業務ならば子どもの様子をみながら仕事をすることができるが、決められた定時が設定されている業務ではそれも難しい。
・ 勤務先がオンライン業務に対応しているか
・ 業務内容がオンラインに適しているか
・ 自宅に仕事をするスペースと子どもが過ごすスペースを確保ができるか
・ 柔軟に勤務時間を設定できるか
在宅での仕事の不安とは
在宅ワークをしてみてどんな問題が起こるのか。実際在宅で仕事をしている人の意見を参考にしてみたい。
親が抱える不安や悩み
・ 仕事に集中できない
・ 子どもの邪魔が入る
・ ストレスとテレビやタブレットを見せていることへの罪悪感
・ 仕事の中断が多い(食事・トイレなど)
・ 仕事に集中できない
・ 勉強のサポートができない
・ 子どもの邪魔が入る
・ 勝手に遊びに行ってしまう/ 帰ってこない
仕事中に話しかけられて集中できなかったり、集中するあまり子どもを蔑ろにしているのではないかと罪悪感を抱えながら仕事をしているという意見が多く見受けられる。食事の支度、トイレの世話、お昼寝の付き添いなど、子どもが小さければ手間もかかる。これでは仕事と育児の両立はなかなか難しい。かといって小学生になってもまだ目は離せず、子どもの行動範囲が広がる分、心配事も増えているようだ。
子ども側の気持ち
反対に、子どもは親が近くで仕事をすることについてどのように感じているのか。
・ ずっといっしょにいられて嬉しい
・ 家にいるので宿題を見てもらえる、家にいるので一緒にゲームをしてくれる、家にいるから相談をしてくれる
・ 家に一緒にいる時間が増えて、一緒に遊んでくれたりするから
・ 何かあったら話しかけることもできて安心できるから
・ 母が人々の役に立っていることがとてもうれしい
・ お母さんが自分の特技を活かしているし、お金を稼いでくれているから
・ 頑張っているから
・ 仕事してて寂しい
・ 仕事してるとひまだから
・ 遊んでくれないときがあるのが、ちょっと嫌
・ 仕事で嫌なことがあった時に子どもにぶつけられること
・ 晩ごはんが遅くなる日があるのが困る
・ 家にいて時々怒られるから
親が近くにいてくれて嬉しい反面、仕事に集中している時間は寂しさを感じることもあるようだ。近くにいる分、イライラや寂しさがお互いに伝わってしまうこともあるだろう。少しでも仕事に集中したい両親、少しでもパパ、ママに甘えたい子ども、お互いに十分満足のいく過ごし方ができるとは限らない。
「子どものそばで働く」を実践するための方法
在宅ワークの問題を解消する工夫
せっかく子どものそばでの仕事をすることを選択したのならば、少しでも快適に仕事をしながら、子どもとの時間を楽しく過ごしたい。そのための無理のない範囲でできる4つの工夫を紹介したい。
①仕事場のスペースを作る
仕事をするための場所を確保する。その場所に親がいる時は仕事中であると、子どもにも理解しやすくなる。「仕事スペースにいる時には、大きな声出をさないでね」などの約束がしやすい。
②時間を柔軟に活用する
通勤が必要ないので、そのメリットを利用して早朝に仕事をしたり、子どもの昼寝の間、就寝後などの時間を上手に使いながら仕事ができれば、日中に、子どもと一緒に遊んだり、宿題など勉強を見てあげることもできる。
③子どもだけでできることを準備しておく
すぐに退屈になってしまい、ママ、パパ、と声をかけられてしまうとその度に仕事を中断することになってしまう。子どもができるだけ退屈しないよう本やおもちゃ、簡単な工作や塗り絵、お絵かきなど、親の手伝いがなくても遊べるものを準備したり、小学生のお休み期間には時間を管理しながら宿題を進められるよう計画を立てるといいだろう。テレビや動画など観るものの内容と時間の管理をしっかりすれば、問題ない。
④食材の買い置き、食事の作り置きをしておく
日中に仕事と子どもの相手に集中できるように、買い物は週末にまとめてすませ、お昼ご飯や夕飯を素早く準備できるように作り置きを常備しておくと便利。朝のうちにお昼や夕飯の準備もすませておけば、準備に手間取ることなく余裕を持って過ごすことができる。お昼ご飯をお弁当にして子どもとランチを楽しんだり、下準備したものを冷凍したものを使う、レトルト、市販の冷凍を使用して、簡単に夕飯の準備ができれば時間も心のゆとりもできる。
自宅以外でも子どもと仕事ができる場所も
子どもと一緒に自宅でリモートワークすることを中心に検証してきたが、自宅内だけで一年中仕事すると考えるとストレスがたまり行き詰まってしまいそうだ。そんな時に、自宅以外にも子どもと過ごしながら仕事をすることができる場所があれば、親も子どももお互いに気持ちがリフレッシュされ、いい息抜きになるのではないか。
子連れ出勤・託児所付き企業
メリット | ・ 産休・育休を取得したスタッフの保育園が見つからないなどのトラブルがなく、早く復帰できる ・ 保育園探しの体力的、精神的苦痛がなく復帰が可能 ・ 一緒に出社して退社できるので、送迎の手間がかからない ・ 企業側も出産・育児を理由に優秀な人材が離職してしまうのを防ぐことができる |
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デメリット | ・ 通勤、退社の混み合った交通機関を利用するのは大変 ・ なるべく保育園に預けるというルールがある場合がある ・ 3歳まで、小学生になるまで、小学生以上だけ、など年齢制限がある ・ ベビーシッター不在なので、自分の子どもの様子をみている必要がある ・ 保育環境が整っていないので、子どもの安全が不安 |
子連れOKのコワーキングスペース
メリット | 託児付きとついてないタイプがあるが、子どもが遊べるスペースやおもちゃなどがあり保育環境が充実している。授乳室やおむつ台も完備されている。 【託児付き】 子どもと離れて仕事をするスペースがあるので、託児中安心して仕事に集中することができる。 【託児なし】 子どもが遊ぶスペースと仕事をするスペースが近く、見守りながら仕事をすることができ、子どもの異変にもすぐ気づくことができる。 |
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デメリット | 【託児付き】 利用料金と託児料がかかり、予約が必要、混んでいて使用できないこともある。 【託児なし】 子どもから目が離せないので、仕事だけに集中することは難しい。 |
子連れカフェやキッズ向け施設
メリット | 子どもが遊べる環境が整い、他の子どもと一緒に遊ぶことができるので 子どもが退屈することは少ない。 |
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デメリット | 子どもから目が離せないので、仕事だけに集中することは難しい。 |
在宅ワーク中、どうしても一人で部屋で遊ばせなければならないときには、祖父母、ママ友と協力しあって、PCやタブレットでオンライン子守するという方法もある。話をしたり、画面から離れてしまった際には「どうしたの?」と、声をかけることもでき、子どもの一人で退屈という気持ちが軽減する。一人ではどうしても子どもに手が回らない時には、第三者の手を少しくらい借りてもいいのではないか。
「子どものそばで仕事をする」ということ
これまで検証をしてきたことをまとめてみると、メリットもデメリットも同じくらい見つかる。会社に行けば「仕事」だけに集中できるが「子育て」はできない。家で「子育て」だけをしていると、「仕事」はできない。「子どものそばで仕事をする」と、「仕事」も「子育て」もできるが、両方満足のいく完璧さは実行できない。
・子どもと過ごす時間が多くなるため、成長を間近で見ることができる
・時間の使い方次第で、自由に仕事も子育てもできる
・通勤がない分、体力的に楽になり、その分の時間を有効に使える
・子どもが体調を崩しても、職場に迷惑をかけずに済む
・仕事だけに集中することは難しい
・子育てだけに集中することは難しい
・会議など自分で調整できない仕事がある場合の子どもの対応が大変
・仕事のこと、子どものこと、と常にマルチタスク対応をしなければならない
なにを基準に自分のワークスタイルを決めたらよいのか
子どもと一緒に過ごしながら仕事をする方法を探ってきたが、子育てと仕事のバランスを取りながら仕事をするということは、さまざまな予期せぬ問題に柔軟に対応する必要があり、どちらか一方に力を注ぐということは難しそうだ。仕事を続けることを選択する人には、「経済的な問題は避けきれずどうしても収入のためにも働かなければならない」「辞めてしまったら今までの自分のキャリアを捨てることになってしまうのではないかと不安」などさまざまな事情がある。実際、仕事に復帰してみて、自分はもっと子育てに専念したいと感じたり、退職後の子育て中に、やっぱり仕事がしたいと感じるケースもある。一人目の子どもの育児中には問題なく仕事と育児を両立できたからといって、二人目の子どももそうとは限らない。独身時代の環境と、出産・子育てを経た後の環境は全く違う。同じような働き方はできないのが当たり前であって、それに対応しなければならないのは誰もが同じだ。
・大切にしたいことの優先順位
・家族との時間
・子どもとの時間
・稼ぎ
・キャリア
・時間のゆとり
・社会への帰属やコミュニティへの帰属
・社会的意義や自己承認
・キャリアプラン
・自分が3年後、5年後にどうなっていたいか
・業務内容は、商談や打ち合わせが多いのか
・長時間の集中作業が必要なのか
・マルチタスクが得意なのか
・フリースケジュールが得意なのか
・自宅などオフィス以外環境で集中できるのか
このように、子育てをしながら仕事をしたいのか。仕事をしながら子どもを育てたいのか。子どもが親を必要とする数年間が終わったあと、どのようになりたいのか。自分に問いかけ、パートナーと話し合いを重ね決断し、上手くいかない時、疲れた時、行き詰まった時にはまた検討して新しい決断をする。働き方の選択肢が増えたのだから、画一的ではない子育て・働き方に挑戦してみていいのではないか。
家庭を守る子育て専門の「お母さん」がいない現代、家族のなかで「家庭の運営」「子育て」を分担していくことが必要だろう。みなで家計を支え、子どもを育てていけば、一人の問題は二人の問題となり、解決方法をより多く見つけることができる。個が尊重され人との繋がりが希薄だと言われる現代だが、昭和の時代より、家庭はより強い絆で結ばれていなければならないのかもしれない。
編集後記
ワークスタイルというくくりを少しだけ広げて、ライフスタイルの中で子育てと働き方を考えれば、子育てをしながら働くのもそんなに悪いことではないかもしれない。少しだけ仕事の仕方が不自由になることもあるかもしれない。でも子どものそばで笑顔をみながら満たされることができる働き方を選択できる時代でもある。働く時間が長すぎて、子どもの成長を見守れないと思うかもしれない。でも、自分だけでなく夫婦で子育てができる時代で、自分だけではできない子育てができるかもしれない。社会としては(あるいは属している組織としては)、どちらかの立場に優劣をつけるのではなく、子育てと働くことのライフスタイルの選択肢を増やすことを目指したい。
参考記事
株式会社キッズライン「職場復帰・復職が不安なママは96%!復帰後に辛かったことは?」