小倉壮平(おぐら そおへい)さん
武蔵野美術大学での活動の縁から2010年に東京より新潟・岩室温泉に移住。観光施設を運営するNPO法人の事務局長(施設館長)として10年間、地域イベントや地域ブランディング/商品開発で地域活性事業を担当。現在は、地域、観光、農業を中心に分野を横断し企業・NPOの両方の側面から持続可能な事業支援に取り組む。りゅうのひげの会の前身となる活動として、2012年、直売所に集まる生産者さんと農家レストラン「やさいのへや」の活動をスタート。2016年、当時野菜ソムリエで活躍していた山岸拓真氏(現代表)とりゅうのひげ会を設立した。
【経歴】
・伝統食用菊りゅうのひげ会 事務局(2016~)
・新潟市市民活動支援センター運営協議会 会長(2021~)
・株式会社リトモ(灯りの食邸KOKAJIYA) 取締役(2022~)
米どころ新潟では菊の花びらを食べる習慣があり食用菊の栽培が盛ん
あまり知られていませんが新潟では菊の花を食べる習慣があり、これは新潟、東北地方独特の文化で、食用がはじまったのは江戸時代頃からといわれています。新潟では、江戸時代からエディブルフラワー(食用花)として楽しめる菊を農家の庭先や畑の片隅で、主に「かきのもと」が栽培されてきました。昭和45年頃になると、水田の転作作物として栽培されるようになり、より花が大きく色鮮やかな紫色へと品種改良されました。
かきのもとの名前の由来は、「生け垣の根本に植えたから」、「柿の木の根本に植えたから」など、諸説ありますが、現在は、「柿の実が色づいてくるころ赤くなるから」というのが一般的になっています。
「かきのもと」は、酢の物のほか、おひたしやごま和え、ごはんのかやくとしても食べられることも多く、あざやかな紫色が食卓に彩りを添え、新潟の秋の風物詩としても楽しまれています。
参考元:かきあえなます 新潟県 | うちの郷土料理:農林水産省 (maff.go.jp)
お殿様が「菊ご飯」にして食した食用菊「りゅうのひげ」とは?
わたしは2010年に移住して地域活性化を目指して、観光施設を指定管理するNPO法人の事務局長と新潟市岩室観光施設「いわむろや」の館長を10年間務めさせてもらいました。
就任間もなく、その「いわむろや」にある直売所に出店している農家から、新潟市西蒲区峰岡地区(三根山藩のちに峰岡藩)のお殿様が好んだ黄色い「りゅうのひげ」と言う美味しい食用菊のお話を聞きました。
関東地方出身であるわたしは「食用菊」を食べたことがありませんでしたが、お殿様が好んだ菊とは一体どんなものなのかと思っていましたが2年後のある日、岩室温泉地内の畑で発見したと知らせていただきました。
見つけたときには前年の大雪でわずか2株を残すのみでしたが、栽培技術に優れた農家に預けて、2014年から2年かけて栽培研を重ね株数を増やし、性質の見極めを図りました。
また、この「りゅうのひげ」の呼び方には「金唐松」や「糸唐松」など様々あるため、どれが正しいものなのか調べてみました。新潟県園芸研究センターに苗を確認してもらったところ、花びらの特徴などから「りゅうのひげ」は、単独品種であることがわかりました。
この「りゅうのひげ」は他の食用菊とは花びらの形状が違い、細い空洞状ですので非常に噛み応えが気持ち良いシャキシャキとした食感があります。食味は柔らかくて香りも良く鮮やかな黄色も加わり上品なものに感じられます。繊細な見た目は料理全体を引き締めるとともに、色鮮やかな彩りがアクセントとして料理を引き立てます。
参考元:嵯峨菊 https://hobbytimes.jp/article/20191205a.html
絶滅寸前にまでに至った栽培の難しさとは?
40年ほど前には岩室温泉近辺を中心で作られていた「りゅうのひげ」は、絶滅寸前にまでになっていました。それは育て方の難しさと、環境的な要因が大きいようです。
「りゅうのひげ」は、遅咲きなので新潟の冬が来る11月下旬頃にようやく花が咲きます。寒さには強いのですが、開花タイミングに霰が降ることがあり、花びらが傷み食べられなくなります。また、9月の初めから収穫される他の早生菊があるため、11月になると購買意欲が落ちてきますし、多くの消費者はわざわざ購入し食べなくなります。
そうなると販売量が見込め収量の採れる早生菊の栽培を優先するようになり、購買意欲が低くなる時期に採れる「りゅうのひげ」は、販売と収穫量が見込めないため自ずと作らなくなり絶滅寸前にまでに至ったのかもしれません。
りゅうのひげを復活させることになった経緯
お殿様が「菊ご飯」にして食した食用菊「りゅうのひげ」のエピソードから、特産物として育て、地域活性化に繋げるために何とか復活させたい!そんな思いにかられたのがきっかけです。
「宝物を見つけられたかも!」初めて口に入れた時に、繊細で上品な味を感じたと、ある栽培者の方から言われました。
当初から栽培の難しさに直面しながらも県内外の菊の産地の視察を重ねながら少しづつ生産量を増やしました。2016年の栽培開始から7年、ようやく生産量も安定してきました。並行して「りゅうのひげ」を次世代に残すべく復活団体を組織化し「りゅうのひげ会」を発足しました。
また、「品質」「販売価格」「苗の拡散防止」などを定めた生産販売契約書を交わした方のみ生産できない方式を取りました。特に「苗の拡散防止」は重要で、第三者への譲渡、販売は禁止しており違反した場合は退会となります。これは「タカラモノ」を守るために必要な規則だからです。
メンバーは地域の農家が主体で、皆で話し合いながら品質基準を作ることから始まり、作業の流れと役割分担等をひとつひとつ決めながらコミュニケーションの場として楽しみながら作業をしています。現在、メンバーは15名ですが、徐々に増やしていくつもりです。
これまでの取り組みが評価!「産直ドミノ基金」の助成先として選ばれた
昨年(2022年)知人から株式会社ドミノ・ピザ ジャパンが設立した「産直ドミノ基金」の情報を聞き申請手続きをした結果、助成を受けることになりました。わずか2株にまで減った「りゅうのひげ」の復活にチャレンジし、600株にまで増やしてきた実績が評価されたようです。
この助成を受けて乾燥機を導入し、2022年度の収穫から乾燥加工が始まりました。「りゅうのひげ」の収穫期を迎える11月〜12時初旬になると一気に開花、収穫するため、スピーディーな乾燥加工が必要です。これまでは乾燥がまにあわず、一部食品ロスが出てしまい収穫物の全てを収益化できませんでしたが、導入した乾燥機による乾燥加工の作業を改善することで、通年で商品を販売できるようになりました。
2022年12月にはドミノ・ピザ ジャパンCEOのマーティン・スティーンクス氏とCOOのベン・オーボーン氏が現地を訪ねて収穫を祝ってくれました。視察を終えたマーティン・スティーンクスCEOは「地域の小さなプロジェクトを支えることはとても意義があり地域は人が作るもの。今回は、“菊でつながる”コミュニティづくりに触れることができ、とても感銘を受けた」と話してくれました。
参考元:「産直ドミノ基金」https://www.dominos.jp/sanchoku/charity
りゅうのひげの今後
この伝統食用菊を将来に向けて絶やさないためにもすべて採れた「りゅうのひげ」を売り上げ利益にすること、「りゅうのひげ」をレストランや生産者に知ってもらい販売販路を拡大すること、そして「りゅうのひげ」の生産に関わるメンバーの後継者を育てることを目標として定め、活気ある活動を継続していきます.
2013年 りゅうのひげを発見
直売所の出店している農家から「りゅうのひげ」のお話を聞き、1年以上かかって岩室温泉地内の畑で発見。見つけたときには前年の大雪でわずか2株を残すのみだった。栽培技術に優れた農家に預けて、2014から2年かけて栽培研究。株数を増やし、性質の見極めを図った。
2016年 農家4人で生産スタート
5月 3人の農家さんに株分けして4名で生産を開始
11月 直売所で試験販売。イベント「三根山藩まつり」を開催し、試食を提供
2017年 さらに8名の農家を迎え、本格スタート
5月 新潟市食文化創造都市推進プロジェクト(補助事業)の採択
9月 新潟県「アグリエンジン」プロジェクト支援事業に認定
10月 青森・八戸へ「阿房菊」産地を視察研修
11月 新潟伊勢丹「越品」に出展し「殿様ロール」を販売。原信巻店で生鮮品の販売を開始
12月 りゅうのひげの乾燥加工の試験に取り組む
2018年 農家15名、促成栽培にも取り組む。
5月 新潟市食文化創造都市推進プロジェクトの採択(2期目)
10月 JA新潟みらい「かきのもと」産地の視察研修
11月 ヤホールで「殿様ロール」「蟹ちらし」を販売
11月 フードメッセinにいがた2018に出展
11月 大阪、秋田の八百屋・市場と取引を開始。飲食店にも販売を開始
2019年 加工品を販売開始
5月 新潟市食文化創造都市推進プロジェクトの採択(3期目)
6月 すし酢、佃煮の加工品を販売開始
8月 JA新潟みらい「かきのもと」産地の視察研修
9月 グルメ&ダイニングスタイルショー2019に出展。パンフレットを作成
11月 合同作業加工日を設け、生涯就労支援施設、地域活動支援センターと協働作業始
11月 東京の市場へ出荷開始
12月 NHK新潟の「産地の晩ごはん」にて放映
2020年 生鮮品の販売が好調
5月 巻総合高校を特別会員に迎え、栽培授業がスタート
11月 フードメッセinにいがた2020に出展。地元新潟での生鮮品卸流通がスタート
11月 愛の野菜伝道師・小堀夏佳さんのベジバルーンセットにセレクト
12月 金沢からのご注文を受け、石川県での販売がスタート
2021年 加工品の取引増加中
1月 巻総合高校の授業にて取り組みを紹介
4月 新潟駅・長岡駅・湯沢駅の「ぽんしゅ館」にて加工品3姉妹が陳列開始
11月 フードメッセinにいがた2021に出展
2022年 生産拡大に向けて再チャレンジ!
1月 新潟伊勢丹の越品コーナーにて商品販売を開始
2月 巻総合高校での生産取組が新潟日報にて掲載
・通販「文化財 小鍛冶屋」Online Shop
・ふるさと納税の返礼品として「ふるさと納税 新潟市 りゅうのひげ」で検索
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/15100/5247787
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/15100/5247786
11月下旬〜12月上旬の発送になります。
数に限りがありますので、ご要望の方は公式ホームページのお問い合わせ欄からご注文ください。
・公式ホームページ
執筆後記
東京都出身である小倉さんのように新潟県在住者ではない俯瞰した視点ならではの活動が、タカラモノ(りゅうのひげ)発見に繋がったのだと感じました。
これまで兼業農家として水稲を作付けしてきた私(亀蔵)は、縁あって今年から「りゅうのひげ」会員として栽培に参加することになりました。それは地域活性化につなげる特産物として育成している取組みに貢献し元気なまちづくりにつなげたいと思ったからです。新しい仲間づくり、菊で繋がるコミュニティが更に広がることを楽しみに関わっていきたいと、思っています。
この「りゅうのひげ」に関わることで気付き感じたことがありました。
今、日本では都市と地方、生産者と消費者、そして人間と自然とのつながりが閉ざされ、本来支え合っているはずのお互いの顔が見えなくなっていると言われています。過疎・高齢化で衰退している地方、食べものをつくっている生産者自身が食べていけない、後継者がいない、耕作放棄地が広がる地方と、生かし生かされ合っている自然や人間とのつながりが希薄になり、生きる実感を失っている都市の抱える課題は、これらを繋げることで解決に近づくのかもしれません。
都市の消費者と地方の生産者が出会い、関係性を深めていくこと。
両者が繋がることで、生産者は農業の価値を直接伝えることができ、消費者は都市生活では得にくい「やりがい」を得られるのかもしれません。そもそも、このような考えに至ったのは、稲作のみでは稼げない知られざる切実な農家の実情が関係しています。農林水産省「農業経営統計調査 令和2年営農類型別経営統計 調査の概要」によると、平成30年の水田作経営(全国平均)の1経営体(183a=田んぼ18反)当たりの農業粗収益は265万円で、一方、固定資産税、農薬などを含めた農業経営費は209万円となりこの結果、農業所得は56万円/年間と言うデータがあります。生業とするにはとても厳しい所得金額ですから、稲作以外の作物との複合経営を考える選択肢もあるでしょう。
「りゅうのひげ」や「果樹、野菜」など多品目での複合経営がもっと増え、生産者と消費者をつなぎ関わる人が拡大すれば、雇用も生まれ双方の抱える課題は解決へと向かうような気がします。
あなたも農業に関わってみませんか?